前回に引き続き「かつら」についてお話をしたいと思います。
今回は、「人工毛」についてです。
人工毛
「人工毛」とは、人間が人工的に作製した毛材を指しますが、材質は石油系化学繊維になります。
代表的な素材は、「ポリエステル」、「ポリアミド」、「ポリ塩化ビニル」や「アクリル」などです。
それぞれの素材により、耐久性や風合いなどが異なりますので、用途により適した材質を選んでいます。
一般的に「人工毛」は「人毛」より重量が軽く、耐久性に優れています。人毛よりも耐熱性がありカールの保持性にも優れています。
特定の温度に設定したヘアアイロンなどにより、人工毛にカールをつけるとブラッシングや洗髪後のカールが元の状態にもどりやすくなる機能があります(耐熱温度やカールをつける温度は、人工毛の材質により様々です)。
それと、「人工毛」は「人毛」とは違い、色落ちや変色などがほとんどないのも特徴です。しかし、髪の毛の色を変える事(化学染毛剤による)は基本的にできません。
デメリットとしては、ある程度使用していると、静電気が原因で「ピーリング」と呼ばれる「ちりつき」が起きてきます。これは、一時的にヘアアイロンなどで伸ばして「ちりつき」を軽減することは可能ですが、時間が経つと再度この現象は繰り返し起きてしまいます。
現在では、見た目や風合いも、以前の「人工毛」と比較して格段に自然になってきました。
人工毛の生産
人工毛メーカー各社もしのぎを削って開発を行っていますので、各メーカーごとに特徴ある人工毛が市場に出てきています。
紡糸については、石油などから加工されたチップを溶かし、各メーカーオリジナルの口金から押し出して、繊維状に冷やして固める方式が主な方法です。
その後、モノフィラメントやマルチフィラメントなどの巻き取り方式、綛揚げ(かせあげ)方式などの工程があり、その他に撚糸や延伸など必要に応じて、その工程に違いがあります。
人工毛の断面形状は、楕円形や眼鏡型、繭型など様々で、その形状により毛がらみが軽減されたり、少ない毛量でボリューム感を出したり、毛と毛の間の空気感を演出したり、各社研究開発により特許化しています。
その他、複数の材質を使用したり、髪の毛の成分を人工毛の材質に使用することで人毛の風合いに近づけるなど様々な努力をしています。
染色方法も、原着法や後染め法などがありコストや生産方法によって違いがあります。そして人毛の風合いに近づけるには、「人工毛」特有のテカリを軽減する必要があります。
お人形さんの毛を良くみると、表面がピカピカとテカリがあるのがわかると思います。これは、「人工毛」に「人毛」表面にある「キューティクル」がないことで起こる現象です。
ですから、「人工毛」は特殊な表面加工(減量処理)により、「キューティクル」に似せる処理をしています。
それから、安全面でいえば人工毛に難燃処理を施した毛材もあります。これは、人工毛が燃えた時に極力燃え広がらないようにする技術です。
これは、各国のレギュレーション(PL法など)によって義務化される場合もあるようです。
ミックス毛
現在のかつらマーケットでは、「人毛100%」や「人工毛100%」の「かつら」もありますが、「人毛」と「人工毛」のミックスした「かつら」が多いようです。
「人毛」と「人工毛」を混ぜることにより、「人毛」「人工毛」のそれぞれの良い機能を「かつら」に適用することが出来ます。
特に「カスタムメードかつら」では、そのお客様のライフスタイルや今迄の「かつら」の使い方などを鑑みて、「人工毛」の素材を選び、「人毛」と「人工毛」の割合を決める事で、ユーザーに最適な「かつら」を作ることが可能になります。
まとめ
人工毛は、各メーカーが、マーケットのニーズに応えるように進化をしています。染色が出来る「人工毛」や「天然コラーゲン」を使用した「人工毛」など、より「人毛」に近い「機能」や「風合い」に近づけるよう各社しのぎを削っているようです。
人毛は、前回お話したように入手が困難になってきています。価格も高騰しており、それが「かつら」の価格に大きく反映してしまいます。
「人工毛」が「人毛」に限りなく近づく日が早く訪れてほしいものです。
「髪レポ」シリーズ(連載記事)
- かつらってどういうもの? |「髪レポ」シリーズ Vol.1
- かつらの役割と効果 |「髪レポ」シリーズ Vol.2
- かつらの種類(前編) |「髪レポ」シリーズ Vol.3
- かつらの種類(後編) |「髪レポ」シリーズ Vol.4
- かつらの種類(後編) |「髪レポ」シリーズ Vol.5
- 「かつら」と「ヘアコンタクト」の違い |「髪レポ」シリーズ Vol.6
- かつらの耐久性と寿命 |「髪レポ」シリーズ Vol.7
- かつらの修理|「髪レポ」シリーズ Vol.8
- ヘアコンタクトは何故、使い切りなのか? |「髪レポ」シリーズ Vol.9
- 人毛について |「髪レポ」シリーズ Vol.10
- 人工毛について |「髪レポ」シリーズ Vol.11(この記事)